昨年、十数年ぶりに中国に行く機会がありました。しかも旅行ではなく2週間ほどの出張で、中国最大級の鉄道車両工場まで見学させてもらいました。
チャイナといえばハ°クリ技術、という先入観があるかもしれません。しかしチャイナが今世界一になろうとしている姿勢は否めません。十数年ぶりの中国訪問、そして2週間の中国出張の率直な感想を、ここで共有したく思います。
中国の高速鉄道の成り立ち
まず、中国はすごく大きい国という点を留意していただきたい。大きいだけに鉄道網も当然大きく、それを充実させるためには地産地消が不可欠でしょう。中国では戦後から機関車、鉄道車両が国内で造れるようになり、70年代からは海外にも車両を輸出しています。
90年代になるとかなり急成長します。しかし在来線の需要の加速は止まらず、その結果、満員と遅延、そして安全上の問題が度重なってきました。まずは安全向上と速達化を目標とし、国産で速度200キロ級の車両 “DDJ1” “DJJ2” (PP式)が試作されました。しかし当時の技術では、まだ耐久性が満足せず、量産に至りませんでした。でも、高規格鉄道の導入は最優先の課題ですから、中国政府は海外から高速鉄道技術を輸入することを決意しました。
ところが、海外からそのまま車両を購入するだけでは、膨大な需要に応えられません。国内でも製造ができるように各国に交渉し、そこで誕生したのがCRH「和諧号」シリーズでした。
和諧号のひみつ
初代CRHシリーズは営業速度は250キロ級、同時に4形式も登場しました。そのうちCRH2は日本のE2系新幹線がベースで、最初の3編成は日本国内で製造し、残る57編成はライセンス生産になりました。(他国からの車両も同様)あれだけの需要があるから、一気に4形式も導入されたのは妥当でしょう。
これは…何系かな…
国内ライセンス生産によって、元車両には無かった独自のバリエーション展開がなされました。E2系ベースのCRH2も、後期車に勝手に500系みたいな目が付けられたり、寝台仕様もできたりします。
さらにその後、今のやつを何とかして380キロで走らせろ、と政府から命令されたのです。(相当な速度が出ないと飛行機との競合にならないでしょうか)CRH 1 2 3 5 の発展型として、CRH380形 A B C Dが爆誕しました。380は自称の最高設計速度を表し、A B C D が製造元ごとの区分です。
初代CRHの4形式は形式ごとに別々の国の技術を持ってきて、国内製造を担当した工場も別々に割り当てられました。それは各国から持ってきた技術を合わせない、そして各工場間で技術を比較・競合させる狙いがあったからです。
4つの技術、そして仕様がバラバラだったせいか、異形式連結が禁止、8両編成は運行時にパンタグラフ1個だけ、などの運行規則が出来てしまっています。単に元仕様がバラバラすぎるからそれに便乗して運行規則に書いたのか、最初からなぜ共通仕様を決めようとしなかったのか、少し気になりますね…
色々な見本をならっての「復興号」
仕様を統一せず、各工場間で技術を競合させたのは、チャイナ国内における「標準仕様」を追求したためでした。和諧号からたった10年で、オール国産技術(とされる)新標準型動力両「復興号」の開発に成し遂げました。形式も CRH から “CR” になり、200キロ級から450キロ級まで、砂漠から極寒地まで耐えられる特化仕様も展開されます。
復興号の車両開発についての論文を貼っておきます。興味のある方は読んでみてください。(Researchgate・無料)
The Fuxing: The China Standard EMU
パクり新幹線と言えるか
「和諧号」ではまず完成車両の輸入から順次国内ライセンス生産に移行させました。そこからは幾度のマイナーチェンジ、そして元の技術を乗っかって速度380キロ級の車両を爆誕させました。確かに既存技術を乗っかって世界最高速度をクレームする点はズルく感じます。しかもそれは瞬時的な最高速度で、営業において安定して出せるのは300キロ程でした。営業では300なのに、380という名を売っては如何なものか…
なお標準車両とされた復興号は、まさしく各国の技術を合わせた仕様になっています。車体構造や機器類はどちらかというと欧州寄りです。日本の車両のノウハウが生かされたのは先頭部分で、新幹線のような一体化した顔に仕上がっています。(欧州の車両の先頭は何枚かのパーツを貼り合わせたような構造ですよね。)
組立を見るところから乗車までの体験
青島市内にある製造工場を見せてもらいました。東京ドーム36個分の面積を持つその工場は、年間1600両の製造能力を有し、R&D施設まで完備。また、車両の全般検査(オーバーホール)も製造工場が受け持っています。(将来的に全検ができる別の基地を作っているとか)
工場内は確かに綺麗で、見学順路も整備されます。組立ラインでは各車両の組立状況がクラウドとつながって、大画面で○○号車の位置・組立の進捗が表示されて面白かったです。
また、最新型CR400AF-Zに乗ることができました。スマート型と呼ばれるタイプで、車内高速インターネットやとても落ち着いた内装、一等車には飛行機のファーストクラス並みのシートが盛り込まれています。見たまんまとてもカッコイイ電車です。
しかし、これは工業的に最先端だ、と思ったものはあまり見受けられませんでした。
構造や機器は既存の高速車両と変わりはありません。例えば、最近はアクティブサスペンションをよく耳にしますが、チャイナの車両では特に備えられず、単に既存の台車構造・バネの剛性等を最適化しただけでした。そもそもチャイナの線路が比較的に立派なので、車両側の工夫はあまり必要ないでしょうか。
ところで、チャイナの高速鉄道はコインが立つほど乗り心地が凄い、とよくバズりますが、それは窓枠が滑止め材だから摩擦が効きやすく、そして線路も直線区間が多いからコインが立ちやすいでしょう。日本の新幹線は窓枠がツルツルだからなかなか立たないだろうし、カーブ時はどう頑張っても立てません。凄い技術というより、単に物理学のトリックですね。
また、工場内に綺麗な見学順路や展示室、VRシアター等々ありますが、実用より演出、と感じる部分もあります。もちろん工場内の整理整頓も大事ですが、「化粧」と「清潔」は根本的に違うものです。
気になるこれからの展開
チャイナで高速鉄道が始まって20年近く、ずっと強い勢いで成長し続けています。複々線区間も出来て、時速400キロ級の営業もずっと目指しています。技術的なですが、400キロ以上となると「蛇行」という鉄道特有の振動や、車輪の摩耗等が顕著になります。そこでリニア鉄道も検討に入りますが、普通鉄道より随分高い運用コストがまた問題になります。研究者たちもそれらの問題を分かっていて、実用化に向けて色々と研究を進めています。
ニュースでは「時速600キロのリニア開発に成功」とよく聞きますが、これもこれで理論上の設計速度で、実走行で本当に600キロまでいったかの証拠はありません。工場内の試験線も数百メートル程度しかないし…(上海の営業線で試験走行したとされていますが)
でも、大きい国だからこそ需要も大きく、その膨大な需要に対して何年も努力してようやく自給自足で応えられるようになったことは凄かったと思います。
しかし、自分が大きいだけに、あれもこれも世界一のマウントを取ろうとしているのは、正しいことではないなと感じます。
まさしく今、チャイナがその技術を世界に広めようとしていく姿勢は止まらず、タイなどの発展途上国でもたくさん影響を受けています。しかし、チャイナが海外に取り組んだ授業のクオリティはいまいちでした。工事では機材から管理者まで揃えてチャイナから持ち込んだものの、建物ごと崩れ落ちました。(2025年タイ地震のニュースを参考)それでも世界一を自慢していいですか?
世界一とは何だろう… 普及率 ? 生産力 ? 技術のクオリティ ? 世界一の定義を改めて考えてみたくなります。
合わせて読みたい論文:チャイナ・イノベーション:中国高速鉄道開発の状況と将来展望
チャイナの高速鉄道の歴史をひと通り詳しく説明したジャーナルです。私が現地で
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